アニメ『進撃の巨人』第15話「特別作戦班」の場面に触れます。ネタバレを含みます。
リヴァイを好きな理由に「掃除好きなところ」を挙げる人は、意外なほど多くいます。人類最強と呼ばれる兵士が、まず命じたのが掃除だったからです。
笑える場面として覚えている人もいれば、なぜかずっと引っかかっている人もいます。引っかかっている人のほうに、少し付き合ってみます。
エレンを預かることになったリヴァイ班は、長く使われていなかった古い城に移ります。手入れのされていない城を見て、リヴァイは班の全員を動員し、徹底した掃除を命じます。
この場面は、リヴァイの潔癖さを示す小ネタとして扱われがちです。でも、彼らがこの城に来た理由を考えると、別の読み方もできます。ここは、いつ暴れるか分からない少年を見張りながら、次の遠征まで暮らす場所でした。先の見えない日々の最初に、手で片づけられる仕事を一つ置いた、という見方です。
知らない場所は、それだけで人を落ち着かなくさせます。そこに、正体の分からない力を持つ新入りが加わっていました。班の誰もが、口には出さない緊張を抱えていたはずです。
床を拭き、埃を払い、窓を磨く。掃除は、知らない場所を自分たちの場所に変える、いちばん地味で確実な方法です。命令の中身は掃除でも、渡していたのは「ここで暮らす」という手触りでした。
エレンにとって、この班は自分を見張る人たちの集まりです。歓迎されるはずもない立場で、彼もまた掃除に加わります。
特別扱いをしない、というのも一つの迎え方です。恐れられている新入りに、ほかの全員と同じ雑用を渡す。それは、怪物ではなく班の一員として数える、という宣言に近いものでした。言葉で「仲間だ」と言うより、同じ雑巾を持たせるほうが、ずっと嘘がありません。
掃除にうるさい人は、汚れに敏感な人です。ということは、汚れを見ないふりができない人でもあります。
戦場で多くの死を見てきた人物が、日々の暮らしの埃にまで目を光らせている。片づかないものを抱えている人ほど、片づけられるものだけは片づけておきたくなるのかもしれません。小さな整頓は、大きな混乱に飲まれないための、彼なりの足場だったと読むこともできます。
この城でエレンは、万が一に備えて地下で寝起きすることになります。きれいに整えられた城の上の階と、隔てられた地下の部屋。
その距離が、この時点での班とエレンの距離でした。掃除を一緒にしたからといって、信頼がすぐに生まれるわけではない。それでも、同じ城で同じ雑用をした事実は残ります。信頼は、そういう事実の積み重ねの上にしか乗りません。
同じ場面でも、残る一点は人によって違います。
人類最強が最初に命じたのが掃除だったこと。新入りに同じ雑用を渡したこと。片づけられるものを片づける手つき。地下と上の階の距離。——笑った場面の中に、引っかかる一点が混ざっていたはずです。
分かれ目は、几帳面かどうかではありません。不安なときに、手を動かして落ち着く人か、考えて落ち着く人か——そこに近いところです。
覚えている場面がひとつあれば、それで十分です。
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<!--裏取り: 進撃の巨人 / https://shingeki.tv/season1/story/episode_22.php / 第22話「敗者達」(公式あらすじ=リヴァイがミカサに追いつき、巨人を仕留めることをあきらめエレン救出に目的を絞る・動きを止める・ミカサが止めを刺そうと攻撃に入る。ミカサをかばって足を痛める点は各話紹介で確認)-->