テレビシリーズ第7話(杏子がさやかにりんごを差し出す場面)の場面に触れます。ネタバレを含みます。
魔法少女まどか☆マギカで心が動いた場面を聞くと、杏子がさやかに食べ物を差し出す場面を挙げる人がいます。ただ、同じ場面を挙げた人でも、止まった位置は同じではありません。
払いのけられたりんごで止まる人もいれば、そのとき杏子が見せた、それまでとは違う怒り方で止まる人もいます。
杏子は、口が悪く、自分のためにしか戦わないと言い切る魔法少女です。さやかとはぶつかってばかりいました。その杏子が、さやかに食べ物を差し出し、払いのけられて、激しく怒る。ここはよく「杏子が乱暴な場面」として語られます。
けれど、あの怒り方は、それまでの喧嘩とは違って見えます。杏子が怒ったのは、自分が拒まれたことよりも、食べ物が粗末にされたことのほうでした。喧嘩っ早い人が、そこだけは譲らない。その一点に、この人の芯があります。
杏子は、いつも何かを食べています。そして人にも、ぶっきらぼうに差し出します。「食うかい」と軽く言うだけで、優しい言葉は添えません。
優しくするのが下手な人は、物を渡すことで話しかけます。 言葉にすると照れくさいことを、手渡しで済ませる。杏子のりんごは、そういう渡し方でした。だから払いのけられたとき、落ちたのはりんごだけではなかった。この場面で胸が痛む人は、言葉の代わりに差し出したものを断られた経験に、どこか覚えがあるのかもしれません。
さやかは、誰かのために願った魔法少女です。自分のためにしか戦わないと言う杏子とは、考え方が正反対でした。その相手から差し出されたものを、素直に受け取るわけにはいかない。
受け取ることは、相手の考え方を少し認めることでもあります。 さやかがりんごを払いのけたのは、杏子が嫌いだったからというより、自分の考え方を手放さないためでした。この場面でさやかの側に立つ人は、受け取れなかった手のほうに、自分を見ています。
同じ場面を思い出しても、残っている一点は人によって違います。
ぶっきらぼうに差し出された手で止まる人。払いのけられて落ちたりんごで止まる人。いつもと違う杏子の怒り方で止まる人。受け取れなかったさやかのほうで止まる人。
作品の評価が分かれているのではなく、ふだん何を見て生きている人かが分かれているだけです。 理由を説明する必要はありません。浮かんだ一場面が、そのままあなたの答えになります。
この場面で息を止めたということが、あなたの何を指しているか。
そこが分かれるところに、あなたの性格が出ます。
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