第1期(梨花妃の看病)の場面に触れます。ネタバレを含みます。
薬屋のひとりごとで心が動いた場面を聞くと、猫猫が梨花妃を看病する一連の場面を挙げる人がいます。ただ、同じ場面を挙げた人でも、止まった位置は同じではありません。
侍女たちを叱りつけたところで止まる人もいれば、そのあと、黙って粥を運び続けたところで止まる人もいます。
猫猫は、ふだん無愛想です。後宮では目立たないように、字が読めないふりまでして下女の顔を通しています。その人が、弱っていく上級妃の看病を任され、周りの誰も止められなかったことを止める。ここはよく「猫猫の優しさが出た場面」として語られます。
けれど、彼女の口ぶりは最後まで優しくありません。妃の体を悪くしていたものを、侍女たちが良かれと思って使い続けていた。猫猫が怒ったのは人に対してではなく、知らないまま毒を塗り続ける手のほうに対してです。優しさというより、目の前で間違いが続くことに耐えられない人の動き方でした。
下女が上級妃の侍女を叱りつける。後宮の決まりからすれば、してはいけないことです。それでも猫猫は、言うべきことを言ってから、自分の立場のことを考えています。
順番が逆なのです。 ふつうは立場を先に確かめてから、言えることだけを言います。猫猫はまず体が動き、口が動き、そのあとで「やってしまった」と思う。この順番に覚えがある人は、この場面で、猫猫ではなく自分のことを思い出しているのかもしれません。
梨花妃は、幼い我が子を喪ったばかりで、自分も弱っていく途中にいました。周りの人は皆、妃を気づかい、腫れ物のように扱います。
そこへ来た下女だけが、妃を気づかう前に、妃の体のことだけを考えて動いた。 叱られたのは侍女たちでしたが、遠慮のない手当てを受け取ったのは梨花妃です。気づかわれることと、手当てされることは違う。この場面で泣く人の多くは、その違いのほうで止まっているように見えます。
同じ看病の場面を思い出しても、残っている一点は人によって違います。
侍女たちを叱りつけた声で止まる人。黙って粥を運ぶ手で止まる人。少しずつ顔色の戻っていく梨花妃のほうで止まる人。終わったあと、何事もなかったように下女の顔に戻る猫猫で止まる人。
作品の評価が分かれているのではなく、ふだん何を見て生きている人かが分かれているだけです。 理由を説明する必要はありません。浮かんだ一場面が、そのままあなたの答えになります。
この場面で息を止めたということが、あなたの何を指しているか。
そこが分かれるところに、あなたの性格が出ます。
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