第1話(1億ドルの誤送金の後始末でバルカへ飛んだ乃木が、追い詰められた場面で、自分とそっくりの「もう一人の自分」に叱咤される場面。第1話の範囲)の場面に触れます。ネタバレを含みます。
VIVANTの第1話。出世から外れた商社マンの乃木憂助は、会社が1億ドルを誤って送金した後始末のために、ひとりでバルカへ飛びます。ピンチのたびに、乃木の前には、乃木と同じ顔をした「もう一人」が現れます。
その「もう一人」は、気弱な乃木とは正反対の口調で、乃木を叱りとばします。ここでは、正体の答え合わせはしません。叱られる側の乃木のほうを読みます。
追い詰められた人を叱るのは、ふつう上司か、家族か、友人です。乃木の場合、その役を引き受けているのは自分と同じ顔をした誰かでした。
報道は、第1話の乃木の前に、別人格とみられる乃木がたびたび現れて助言し、「お前も俺も」と言って叱咤したと伝えています。クビになるわけにはいかない、という叱り方です。
叱る声を外に持っていない人は、ふたつのどちらかになります。誰にも叱られないまま崩れるか、叱る役を自分の中に置くか。乃木は後のほうでした。
人前の乃木は、おどおどしていて、頼りなく見えます。少なくとも、第1話の周りの人たちはそう見ていました。
けれど、内側から聞こえる声は、乃木の誰よりも強い言葉を使います。外に出している顔と、自分に向けている声の強さが、まるで釣り合っていない。 外では引いて、内側でだけ自分を追い込む。そういう人は珍しくありません。人に強く言えない分の強さを、まるごと自分に向けているからです。
叱咤の中で残るのは、「お前も俺も」という言い方です。
叱る側も、叱られる側と同じ立場に自分を入れています。突き放すのではなく、同じ穴の中から怒鳴っている。 上から言うのではなく、隣から言う叱り方です。
ひとりで背負うには重すぎるものを、ひとりのまま二人に分けて背負う。周りに頼れる人がいない場所で、乃木はたぶんずっとそうやって立ってきたのだと思います。この先それが何を意味するのかは、第1話の外の話なので書きません。
同じ場面でも、残る一点は人によって違います。
おどおどした乃木の顔。同じ顔で現れて叱る「もう一人」。「お前も俺も」という言い方。ひとりで砂漠の国に放り込まれた心細さ。——第1話のどこかに、引っかかった一点があったはずです。
分かれ目は、強いか弱いかではありません。追い詰められたとき、誰かに叱ってほしい人か、自分で自分を叱って立つ人か——そこに近いところです。
覚えている場面がひとつあれば、それで十分です。---