チョッパーは、怪物のまま迎え入れられた

アニメ『ONE PIECE』第85話「はみだし者の夢!やぶ医者ヒルルク!」の場面に触れます。ネタバレを含みます。

ONE PIECEでチョッパーの過去を挙げる人は多いですが、同じドラム島編を見ても、涙腺が緩む一点は人によって違います。

受け入れられた場面より、まだ誰の仲間でもなかった時間の描写を、記憶に留めている人がいます。

優しかったから、受け入れたのではない

トナカイの群れからは鼻の色を理由に追われ、人間からは角のある化け物として銃を向けられる。人間の姿を手に入れたチョッパーが最初に知ったのは、どこにも居場所がないという事実でした。そこに現れたのが、やぶ医者と呼ばれていたヒルルクです。

この出会いは、心優しい医者が可哀想な動物を保護した話として語られがちです。でも順番をよく見ると、そうではありません。ヒルルク自身、島の人間からまともな医者だと思われていない、既に外側に置かれた人間でした。優しさが先にあって受け入れたのではなく、自分と同じ場所に立っている相手だと分かったから、迷わなかったのです。

同情という感情は、多くの場合、相手より高い場所から差し出されます。可哀想だから助ける、という形の優しさです。ヒルルクの態度には、その高さがありません。自分もまた追われる側にいる人間として、同じ地面の上でチョッパーを見ていただけです。高さの差がなかったからこそ、チョッパーもその手を怖がらずに済みました。

傷の手当てをする手つきは、いつもと同じだった

倒れているチョッパーを見つけたとき、ヒルルクがしたことに特別な演説はありません。いつもの道具を使い、いつもの手つきのまま、傷の手当てを始めただけです。

相手を怪物と呼ばなかったのではなく、怪物かどうかを確かめる手順そのものを、最初から持っていなかった、と見るほうが近いかもしれません。他の人間なら、治療の前に「お前は何者だ」と聞いたはずです。ヒルルクはその問いを飛ばして、先に傷を見ました。診断より先に手が動く人間だったから、警戒する暇がなかったとも言えます。

この順番の違いは、ヒルルクの職業病のようなものでもあります。医者狩りに追われながらも治療をやめなかった人間は、相手の素性より先に、目の前の傷のほうを優先する癖が体に染み付いています。チョッパーにとって、それは生まれて初めて受け取る扱いでした。名乗る前に、まず手当てされる。順番が逆になっただけで、彼の中の何かが少しだけ緩みました。

薬と包帯が、言葉より先に二人をつないでいた

ヒルルクとチョッパーの関係を作ったのは、言葉ではなく治療の道具でした。ろくに効かない薬、使い古した包帯、山で拾ってきた薬草。二人が並ぶときは、たいてい何かの手当ての最中です。

これは友情のはじまり方として、かなり遠回りです。名前を呼び合うより先に、傷の数を数え合っている。でも言葉で確かめ合う関係より、道具を挟んで確かめ合う関係のほうが、疑いようがありませんでした。薬を渡す手は嘘をつけないからです。チョッパーが医者に憧れるようになった芽は、この遠回りの中に既にありました。

ヒルルクの薬は、大抵の場合よく効きません。それでも彼は作ることをやめませんでした。効くかどうかより、差し出す行為そのものを続けることに、彼は意味を置いていたように見えます。チョッパーが受け取ったのは、正しい治療の知識である以前に、効かなくても差し出し続ける、というこの態度のほうでした。

くれはの厳しさは、優しさの裏返しではなかった

もう一人の登場人物、医者のくれはは、ヒルルクとは正反対の接し方をします。優しい言葉をかけず、むしろ突き放すような態度を取り続けます。

一見すると、ヒルルクの優しさとくれはの厳しさは対になって見えます。でも二人がやっていることの中身は、実は同じです。チョッパーを特別扱いしないという一点で、二人はそろっていました。甘やかすことも、怖がることもしない。動物でも人間でもない存在を、そのまま扱う。優しさと厳しさは、見た目が違うだけの、同じ態度でした。

「やぶ医者」という評価は、蔑称ではなく順位だった

島の人間はヒルルクを「やぶ医者」と呼びます。効かない薬ばかり出す、頼りにならない医者だという意味です。この呼び名は、腕前を評価した結果のように聞こえます。

でも中身を確かめると、少し違って見えてきます。ヒルルクは、治せるかどうかより、誰も診なかった相手を診ることを優先し続けた人間でした。治療の成功率で医者を並べるなら、彼は下のほうに来ます。でも、誰も名前を呼ばなかった怪物を診た医者を並べるなら、彼はいちばん上に来ます。「やぶ」という評価は、彼が何を優先していたかの裏返しでした。

いなくなったことで、終わる関係ではなかった

この編の終盤、ヒルルクは病の悪化からいなくなります。多くの人は、この結末を悲しい終わり方として覚えています。

でも彼が受け入れた時間の中身を見ると、悲しい結末だけで片づけられる話ではないと分かります。彼がいなくなったあとも、チョッパーの体には、傷の手当てをする手つきと、道具の使い方が残りました。関係は、いなくなった瞬間に途切れるものと、途切れないものに分かれます。彼が渡したのは、後者のほうでした。

あなたが止まったのは、どこでしたか

ドラム島編は長い話なので、同じ場面を見ても止まる位置は分かれます。

傷の手当てから始まった出会い方。くれはの態度が変わらなかったこと。「やぶ医者」という呼び名の裏側。道具を挟んで確かめ合った関係。——止まる位置は、見ている人の数だけあります。

ここで分かれるのは、感動の量ではありません。誰かを迎えるとき、条件から先に見る人か、傷から先に見る人か——その違いです。

思い出す場面が一つだけでも、十分に足ります。

---

この場面で息を止めたということが、あなたの何を指しているか。
そこが分かれるところに、あなたの性格が出ます。

ONE PIECEのキャラで診断する

ほかの場面